大阪地方裁判所 昭和42年(借チ)42号 決定
〔主 文〕別紙(二)記載の借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更し、かつ、存続期間を三〇年延長して同(二)の(2)記載の存続期間を昭和二七年五月一日から満五〇年に、同(二)の(3)記載の借賃を一カ月金三万四、〇〇〇円に、同(二)の(4)記載の敷金を金一〇万二、〇〇〇円にそれぞれ変更する。申立人は相手方に対し金二〇〇万円を支払え。
〔決定理由〕本件申立の要旨は、別紙(二)記載の賃借権につき、目的土地(別紙(一)記載)が防火地域の指定を受けたこと及び附近の土地の利用状況の変化したことを理由として、堅固の建物所有を目的とするものに借地条件の変更を求めるというにある。
本件において調べた資料によると、
(1) 申立人は、昭和二一年七月頃、相手方の祖父田中藤吉から、別紙(一)記載の土地を非堅固の建物所有の目的で借り受け、その後賃貸人側の相続により現在相手方が賃貸人たる地位にあること、その間賃貸人側は賃貸借契約の内容を明確にするために、昭和二七年五月九日付公正証書を作成し、その存続期間を昭和二七年五月一日から満二〇年にする旨定めたこと、
(2) 目的土地につき、昭和一一年四月九日、防火地域の指定がなされたこと、
(3) 賃借権の目的土地は、国鉄環状線天満駅の西側に隣接し、天神橋筋都市計画街路に面しており、前記土地賃貸借契約がなされた昭和二一年七月頃の附近の土地は、その西側に大阪市立衛生研究所(三階建堅固建物)が存在するほか、戦後のバラック建の建物が立つている状況であつたが、その後都市計画の進行に応じて、右都市計画の進行に応じて、右都市計画街路に面して堅固な建物が立ち並ぶようになり、現在では右街路に面している建物の約半数は堅固な建築物であつて、商業地として繁華街を形成していること、
(4) 申立人は、別紙(一)の土地を借り受け、戦後のこととて、同所に木造瓦葺平家建店舗を建築して現在に至つたが、土地の合理的利用をはかるため、資金の許す限り三階建堅固建物に改築する予定で本件申立におよんだこと、
以上の事実が認められる。
右の事実によると、本件賃貸借契約締結当時既に目的土地につき防火地域の指定されていたけれども、折から戦後の物資不足の時期であり、木造建築の可能性しかなかつた状況のもとに非堅固建物所有を目的とする土地賃借権が設定され、その後附近の土地の利用状況の変化により、堅固建物の築造を相当とするに至つたものというべきである。
更に本件に顕われたその他一切の事情を考慮しても、別紙(一)記載の土地について堅固建物所有を目的とする借地条件変更を不相当とするような事情は窺えないから、本件申立はこれを認容すべきである。
そこで、附随処分について考えてみる。
当事者双方の陳述によると、借賃について、申立人は一カ月金一万七、〇〇〇円、相手方は一カ月金三万四、〇〇〇円に増額するのが相当であると述べ、存続期間の延長について、相手方は借地条件変更の日から三〇年間とするのが相当と述べ、財産上の給付について、申立人は坪当り金三万円出す用意があると述べるのに対し、相手方は坪当り金一〇万円の要求をし、更に増額された借賃の三カ月分の敷金を差し入れるのが相当であると述べる。
資料によれば、申立人は、本件賃貸借契約時、賃貸人田中藤吉に対し、借賃の三カ月分の敷金三、六〇〇円を差し入れ、昭和三六年一一月末、借賃の増額に伴いその増額借賃の三カ月分である金三万六、〇〇〇円に敷金が増額されたことにより、その際以前に差し入れた敷金三、六〇〇円との差額金三万二、四〇〇円を相手方に対し追加して差し入れているほか、権利金等の金銭の授受がなされていないこと、借賃は昭和三九年六月一日以降一カ月金一万四、四〇〇円であることが認められる。
まず、借賃及び賃借権の存続期間について考えてみるに、賃借権の目的土地の更地価額について、乙第一号証(住友信託銀行本店不動産部の鑑定書)によれば一平方米当り金三〇万円(坪当り金九九万円)、乙第二号証(佃土地株式会社の鑑定書)によれば一平方米当り金一九万二、〇〇〇円(坪当り金六三万三、六〇〇円)と評価されており、附近の土地の利用状況の変化に伴つて本件土地の価額も相当増加していることが認められ、このような土地を堅固の建物所有の目的に借地条件変更のうえ使用収益しようとする賃借人は、相当の借賃を賃貸人に支払わなければならないと考えられるところ、鑑定委員会の意見によれば、本件土地の更地価額を評当り金六〇万円と評価したうえ、土地賃料算定の基礎となる坪当り価額を更地価額の七割とみて、これに適正利潤及び管理費を乗じ、更に賃貸借契約存続の既得権を控除するという方法により、適正賃料としては金四万二、五七二円(坪当り金一、二四七円)が相当であり、借地権の存続期間をこの裁判確定の日から三四年延長するのが相当であるである旨意見を述べている。
そこで、以上の諸点を考慮した結果、借地条件変更後の借賃については、相手方の求める一カ月金三万四、〇〇〇円に増額することとし、また借地権の存続期間については、賃借権残存期間満了の翌日である昭和四七年五月一日から更に三〇年延長することとする。
つぎに、右の借賃等の変更を前提として、財産上の給付を命ずる必要があるか否かを検討してみるに、本件借地条件の変更に伴い申立人は目的土地に堅固建物を築造できるようになり、借地権の存続期間も延長されてその価値の増加が考えられ、これに反し、相手方は自己の土地利用が制約され、土地所有権の処分価値の減少を免れないから、当事者双方の利害の調整をはかるため、申立人に対し相当の財産上の給付を命ずべきものと考えられる。
そして、本件土地についての堅固建物所有を目的とする借地権の価額から、借地条件変更前の借地権の価額を差し引いたものが、借地条件変更により増加した価値であると考えられるところ、賃貸人に配分する割合は、賃貸人、賃借人のいずれが借地条件の変更を必要としたか、借地権について条件変更を認めうるようになつた附近の土地利用状況の変化につき当事者の一方の寄与があつたか否か等の事情を考慮に加えて定めるべきものであると考える。
而して、前示鑑定委員会の意見が、その借賃算定の基礎となる坪当り価額の七割とみていることに徴し、本件土地についての堅固建物所有を目的とする借地権の価額を更地価額の約七割と判定し、借地条件変更前に申立人が有していた借地権価額は、賃借土地の場所的関係、従前の経過、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、更地価額の六割が相当であると判定せられるから、結局その差額である更地価額の一割に相当するものが配分の対象となる増加価値と認められる。そして、更地価額の評価については、前記各鑑定書(乙第一、二号証)による評価を考慮に入れても、なお前示鑑定委員会の意見の基礎となつた更地の評価に拠るのが相当であると認める。
ところで、本件においては、賃借人である申立人の都合から借地条件の変更を求めたものであり、また条件変更を認めうるようになつた附近の土地の利用状況の変化については、専ら都市計画の進展によるものであつて、賃借人である申立人の特別の寄与があつたとも認められないから、堅固建物所有を目的とする借地条件変更によつて賃借人である申立人が取得する借地権の価値増加分は、これを全部賃貸人に還元するのが相当であると考える。
したがつて、本件土地の更地価額金二、〇四八万円の一割に相当する金二〇〇万円(端数を切捨)をもつて財産上の給付額と定める。
なお、相手方は、増額された借賃の三カ月分の敷金が差し入れられるべきであると述べ、当裁判所もこれを相当と認め、借地条件変更後の敷金の額を増額された借賃の三カ月分に相当する金一〇万二、〇〇〇円(そのうち金三万六、〇〇〇円は従前申立人から相手方へ交付ずみ)に増額することとする。
以上の理由により、主文のとおり決定する。(志水義文)